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Prey-Predator系における能力の進化 - 4. 進化する能力を考察する

これまで

Prey-Predator系(被食者-捕食者系)における被食者と捕食者の個体能力の共進化が見たくて,これまでに(前回: d:id:swarm_of_trials:20080804)までに,進化ゲーム理論に基づいたPrey-Predator系っぽい利得行列を設計して,それの個体数動力学を調べました.作った利得行列は以下です.

Prey Predator Empty
Prey 0 α
Predator δ 0
Empty 0 0 0

各パラメータは次のことに関する係数を表します.
α: 増加(繁殖 - 自然死),β: 被食,γ: 自然死,δ: 捕食と繁殖
(δに関してですが,繁殖量は捕食量に比例すると仮定されているため,このようになっています)

今回は個体の能力というものを考え,それを利得行列に反映するということをします.

個体の能力

上のパラメータを見てもわかるとおり,個体に起こるイベントは被食or捕食,繁殖,自然死の3つです.
観察したいのは被食者と捕食者の個体能力の共進化です.
自然死は被食者・捕食者共に個体に独立に起こることなので,それの能力(長生きする能力?)の進化は考えないことにします.
よって考える能力は

  • 被食者: 捕食者から逃げる能力(回避能力)p_y,繁殖能力 r_y
  • 捕食者: 被食者を捕まえる能力(捕食能力)p_d,繁殖能力 r_d

 p_y, p_d, r_y, r_d \in \mathcal{R}^+)にしようと思います.

これを利得行列に当てはめると,次のようにできると思います(γ'は被食者の自然死).

Prey Predator Empty
Prey 0 -F(p_y, p_d) r_y - \gamma'
Predator r_d F(p_y, p_d) 0
Empty 0 0 0

 F(p_y, p_d)は,能力p_yの被食者と能力p_dの捕食者が出会ったときの捕食者が被食者を捕食する度合いを表します( F(p_y, p_d) \in \mathcal{R^+}).
この関数がどのような形であるかは自明ではありませんが,少なくとも \frac{\partial F(p_y, p_d)}{\partial p_y} < 0 \frac{\partial F(p_y, p_d)}{\partial p_d} > 0であると言えます.

トレードオフの導入

前項目で進化する個体の能力を決め,それを利得行列に反映しました.
ただし,このまま進化させると,全ての能力が突然変異率に比例してどんどん上昇していくだけ,というのが容易に予想できます.
とすると,あまりおもしろくないし,おそらく能力の進化を考えていないことと同じなので,ここで能力の間のトレードオフを導入したいと思います.
生物の身体には様々な制約があるため,このようなトレードオフがあることは,それほど不自然でないと思います.
例えば,大きな脳は(複雑な環境で生き残れる)知性をもたらしたが,その代わり消費エネルギーは非常に多い.などです.

ただし,どのようなトレードオフ関係であるかは自明ではないので, p_y = G_y(r_y) p_d = G_d(r_d)と書くことにします.
トレードオフ関係を表す関数でなので, \frac{d G_y(r_y)}{d r_y} < 0 \frac{d G_d(r_d)}{d r_d} < 0と言えます.

ってことで,

次回はようやく進化を始められそうです.
ちなみに,上に書いてる未知の関数( F(p_y, p_d), G_y(r_y), G_d(r_d))は数値計算などをする際には適当に簡単な関数を仮定しようと思ってます.